当会は創立70周年を迎えた横浜市立大学山岳部のOB、OGによる親睦団体です。

山の本棚bookshelf

2023年

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『What's Next? 終わりなき未踏への挑戦』平出和也著(2023年2月18日/KADOKAWA/メディアファクトリー )1,980円

 
 登山界のアカデミー賞と称されるピオレドール賞を3度受賞(日本人最多)した、クライマーで山岳カメラマンの平出和也(ひらいでかずや)。
 その半生を平出氏自身が記した標題書、3ヶ月ほど前に読了していたのですが、忙しさにかまけて紹介文を書かずに寝かせておりました。
 平出氏が東海大山岳部に在籍していた20数年前、私は既に川崎市の自宅を引き払って九州に帰っていたので、神奈川県大学山岳連盟(大学連)主催のクライミング合同練習やキャンプで彼と顔を合わせた記憶はありません。
 大学連の世話人をずっと続けていた横浜市大山岳部の先輩、吉田宣明(よしだのりあき)さんからは、「陸上競技(競歩)出身で、体力・持久力が半端なく強い部員(平出氏)が東海にいる」と聞かされてはいましたが。
 諸事情でしばらく遮断していた登山界のニュースを再び聞くようになった2010年頃、偶然目にしたTV番組『情熱大陸』の服部文祥(サバイバル登山家)特集番組で、撮影中に滑落して大怪我を負った服部氏を救出して介助したカメラマンが平出和也だと知って、改めて彼に注目するようになりました。

 そんな平出氏の登攀歴は、前述のピオレドール賞をゲットしたクライミングだけを列挙しても以下の凄まじさです。

2008年10月:カメット(7,756m/インド)南東壁初登攀
      パートナー谷口けい
2017年 8月:シスパーレ(7,611m/パキスタン)北東壁新ルート初登攀
      パートナー中島健郎
2019年 7月:ラカポシ(7,788m/パキスタン)南壁新ルート初登攀
      パートナー中島健郎

 個人的な感想ですが、平出氏はインドやパキスタンのマイナーな山域にある7000メートル級の秀麗な高峰の中から、誰も登っていない美しいラインを見つけ出す能力に長けている方だとお見受けしました。
 私は1994年にラカポシ麓の村、パキスタンのフンザに滞在していたことがあるのですが、その稜線の美しさに目を奪われるばかりで、未踏の新ルートを見つけようなど思いもしなかったなぁ。

 現在の日本クライミング界は、平出和也のようなアスリート的な体力を持った心肺機能の強い人間が、最先端の登攀用具を使いこなした上での高い技術力を駆使して、世界的な難課題に向かうというのが潮流なのですね。
 山屋の端くれを自認していた私ですが、本書を読んで「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」というダグラス・マッカーサー演説の一説が脳裏に浮かびました。
                                              (2023年8月)

2022年

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『CHRONICLE クロニクル 山野井泰史 全記録』山野井泰史(2022年7月13日/山と渓谷社)2200円

 登山というマイナージャンル、その中でもごく少数の精鋭がヒマラヤやパタゴニア等の大岩壁で命懸けの課題に挑んでいるアルパインクライミングの分野で、個人の山行記録集(Chronicle)が商業出版されるというのは異例のことだと思います。
 日本が世界に誇るアルパインクライマー、山野井泰史のクロニクルを、彼が存命中でかつ現役クライマーであるうちに読める幸せを噛みしめながら読了しました。
 45年に及ぶ濃密な登攀人生の中で感銘を受けたのは、2002年のギャチュンカン北壁登頂後の下降で手足の指を失った山野井が、クライマーとしての復活を目指す課程での葛藤が記された「再起の登攀」以降でしょうか。
 あの山野井泰史ですら、ヒマラヤでのクライミングに4回連続で失敗したという記録を読んで、ビッグウォールクライミングではありませんが天山山脈のトムール峰(7435m)登頂に3回連続で失敗した経験のある私は、18歳で山の世界に入って以来ずっと雲の上の存在だった彼に対して、初めて親近感を覚えました。
 昨年のピオレドール生涯功労賞で評価された輝かしい登攀歴だけでなく、人間くさい敗退や失敗の記録も包み隠すことなく記されたすばらしいノンフィクションです。
                                             (2022年7月)

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『アルパインクライマー1 〜単独登攀者・山野井泰史の軌跡〜』よこみぞ邦彦(原著)、山地たくろう(作画)(2022年6月30日/小学館)715円(税込)

 日本が誇る世界的アルパインクライマー、山野井泰史の半生を描くコミックの第1巻が発売されました。
 僅か小学校5年生で山に魅せられ、試行錯誤を繰り返しながら青春の全てを山に捧げた少年時代の山野井氏の情熱が、ダイレクトに伝わってくる良作。
 登攀について無知故に、無謀なトライや大ケガを繰り返す山野井少年を見守るご両親、特に母親の接し方がすばらしい。
 子供の夢を無理に取り上げれば、「心が死にます!!」と断言するあのお母様あってこそ、後年のスーパークライマー山野井泰史が誕生したのだと思うと胸が熱くなります。
 第2巻以降の展開にも、大いに期待したいと思っています。
                                              (2022年7月)




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『さよなら、野口健』小林元喜著(2022年3月30日/集英社インターナショナル)1900円(税抜)

 環境活動家で自称アルピニストの野口健。
 野口事務所で長くマネージャーを務めた小林元喜氏が、毀誉褒貶の多い彼の実像に迫ったノンフィクションです。
 山岳ジャーナリストでサバイバル登山家の服部文祥氏によると、「登山家としては3.5流、市民ランナーレベル」らしい野口氏。
 3.5流≠ニいう評価はともかく、競技スポーツではない登山というジャンルの特殊性を巧みに突き、落ちこぼれてエベレスト%凾フ卓越したセルフプロデュース能力とタレント性によって、登山家として実力以上の過大評価や知名度を得ていたことは間違いないところだと思います。
 
 同じく競技スポーツではない格闘エンターテインメント、私の大好きなプロレスに例えると、シュート(ガチンコ)の実力はよくわからないが、リング上のパフォーマンスとファンやマスコミへのアピール能力によって評価を得ていた馳浩(現政治家)のようなタイプではないかと。
 ただ、野口以降何人か出現した、7大陸最高峰最年少登頂≠ニかいう、登山の記録として何が凄いのか良くわからない実績を売り物にして知名度を得、世にでていった若者たちをみると、その先鞭を付けたという意味で野口はパイオニアだったのでしょう。

 7大陸∴ネ降、野口の活動の代名詞だったエベレストや富士山麓での清掃活動。環境活動家としての野口健は評価されるべきで、その先見性や実行力、世の中に与えた影響力は、登山家としてのそれの比ではないことは衆目の一致するところだと思います。
 落ちこぼれ→登山家→環境活動家とステップアップ(?)していった野口が上がり≠ニして目指したのは、当然のごとく政治の世界で、本書の記述の多くは、橋本龍太郎、石原慎太郎、小池百合子ら、一筋縄ではいかない政治家たちに取り入ろうとする野口の姿や、彼ら(彼女ら)との交流について割かれています。
 野口ウォッチャーである私も、グレタ・トゥーンベリさんのような次世代の環境活動家にその地位を脅かされつつあったであろう野口が、次に目指すのは政治家だと確信していたので、何故なかなか出馬しないのか不思議に思っていましたが、本書を読んで腑に落ちました。
 野口が20代の頃、ネパール登山の際に一目惚れしたシェルパ族の娘(10代半ばだったらしい)と結婚≠オ、その後手切れ金を払って別れたのは本人の著書や講演で何度も明らかにされている事実のようですが、おそらくその経歴が政党の身体検査に引っかかって公認されないのでしょう。
 
 アマレスでオリンピック出場→高校の国語教師→全国TV放送のプロレスラー(タレント高見恭子と再婚)→参議院議員→衆議院議員(文部科学大臣)→石川県知事というキャリアを歩んできた馳浩との決定的な違いは、脇の甘さと過剰なサービス精神による失言癖、そして人生設計における計画性のなさですかね、野口健の場合。
 現役のプロレスラー時代、明らかにレスラーとして得た知名度を利用して政治の世界に進出しようとしていた馳の処世術(そういう匂いはファイトスタイルや言動に現れる)が鼻について、彼のことが好きになれなかった私は、同じく登山家として得た知名度を基に別の世界へ行こうとしていた野口健の軌跡を馳浩に重ねていました。
 本書を読んで野口健は馳浩にはなれない≠アとは確信しましたが、それで野口に対する好感度が上がったとか、愛すべき男だと思い直したとか一切ないので念のため。
 大人げない感情かもしれませんが、プロレスにしろ登山にしろ、私の愛するジャンルを踏み台にしようとする人間は、鼻持ちならないとしか思えないからです。
 また、このようなタイプの人間は、自らの野心のために家族や親友など自分の大切な人を踏みつけたり犠牲にすることも厭わないという事を、経験上付け加えさせて頂きます。
 本書の著者、小林元喜氏はそんな犠牲者の一人ではないでしょうか。
                                              (2022年5月)

2021年

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『下山の哲学 登るために下る』竹内洋岳著(2020年10月15日/太郎次郎社エディタス)1800円(税抜)

 日本人初の8千メートル峰14座完登者、竹内洋岳氏によるヒマラヤ山行記録集です。
 「頂上は通過点にすぎない。そこから下ってきて完結するのが登山」と言い切れるのは、日本人随一のヒマラヤ・ピークハンター竹内氏ならでは。
 世界に目を向けると、無酸素で14座すべてを登頂したラインホルト・メスナー等の先人たちがいて、竹内氏の"日本人初"という完登記録についてはあまり関心のなかった私。
 しかし本書を通じてトレースした、竹内氏の山の軌跡は凄まじいの一語です。失敗した遠征も含め、正真正銘の"デス・ゾーン"をくぐり抜けてきた方なのだと改めて思い知りました。
 竹内氏より前の世代のヒマラヤニストで、学生時代の私の憧れの存在だった、山田昇さん、名塚秀二さん、田辺治さんらの猛者たちが、ことごとく8千メートル峰10座登頂を前に遭難死したことからみても、14座全てを登頂しただけでなく、生きぬいて下りてきた竹内氏の凄味を感じます。
 ドラマチックな登頂や遭難がクローズアップされがちな山岳書では珍しく、地味な"下山"をテーマに綴られた本書。
 たいへん興味深く拝読しました。
                                              (2021年1月)


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『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓著(2020年11月30日/集英社)1600円(税抜)

 2018年5月、エベレストで滑落死した栗城史多氏。
 彼が"登山家"として世に出る前の北海道時代から、TV局ディレクターとして取材を行っていた河野啓氏が、栗城氏が死に至る過程を追ったノンフィクションです。
 エベレストを南西壁から"無酸素単独"で登頂すると大風呂敷を広げ、企業や一般の方から多額の協賛金を集めていた栗城氏が、「シェルパにボンベを集めさせ、BCやCIのテントでこっそり酸素を吸っていた」というのが本書の最大の売りである"栗城氏の誰にもいえない秘密"らしいですのが、彼の一連のヒマラヤ登山が"無酸素"でも"単独"でもなかったことは周知の事実でしょう。
 ただ、最後のエベレストは、いろいろなことに行き詰まった栗城氏が選んだ自死の舞台であったという筆者の仮説は、なるほどなと思いました。
 どうせ死ぬなら、登山家の間で"ヤク・ルート*"と称されているノーマルルートの東南稜ではなく、エベレスト最難関の南西壁で派手に散りたいと考えたのかもしれません。
 結局は南西壁基部にたどり着く体力や気力すらもなく、壁に背を向けて敗走中に、滑落死へと至ったわけですが。
 栗城氏については生前から様々な登山家が論評していましたが、服部文祥氏が「登山史に対する文化的横領」と喝破したのが、私の彼に対するアレルギーの理由を端的に表現していると感じました。
 今後、私が栗城氏や彼の登山に言及することはないでしょう。

*ネパールやチベット高原で荷役用動物として家畜化されたウシ科の動物、"ヤク"でも登れる易しいルートの意味。
個人的には、例えガイド付き・有酸素の登山であっても、下部のアイスフォール帯や山頂直下の"ヒラリーステップ"の通過はかなり危険なのではと思っています。
                                              (2021年1月)

2016年

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『外道クライマー』宮城公博著(2016年3月月/集英社インターナショナル)278頁/1600円(税別)

 登山には縦走(尾根歩き)、岩登り、氷壁登攀といったよく知られた登り方の他に、沢登りというジャンルがあって、著者の"舐め太郎"こと宮城公博氏は、日本で独自に発展したこの分野における第一人者です。
 2012年に熊野大社のご神体、那智の滝を登攀しようとして逮捕された三人のクライマーの中の一人、と言えば記憶に留めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 当時マスメディアやネット上で大バッシングを受けていた三人を、その尻馬に乗って批判した"自称アルピニスト"の野口健。
 その野口を批判する形で宮城氏らの行為を擁護しようとした私に対しても、メール等による結構な数の中傷がありました。

 那智の滝の一件で会社をクビになった宮城氏が、その後台湾の大渓谷「チャーカンシー」、タイ奥地のジャングルの大河、日本最後の地理的空白部と言われる富山県立山町の「称名廊下」のゴルジュ(※1)や氷瀑に挑んでいく様を綴った本書、たいへんおもしろく拝読しました。
 "舐め太郎"というフザけた異名、登攀中や山頂で全裸になる、露悪的な文章など、誤解を招きやすい宮城氏の言動ですが、沢登りやアルパインクライミングに対する向き合い方は、ストイックで真摯そのもの。
 スポンサー企業名の入ったワッペンをジャケットにべたべたと貼り付け、テレビカメラの回っている前で山のゴミを拾い、ヒマラヤ高峰の一般ルートを酸素を吸いながら、シェルパに引っ張り上げてもらって"登頂"している"自称アルピニスト"とは大違いです。
 野口某や栗城某等、クライマーとしては箸にも棒にもかからない紛い物が、セルフプロデュース能力(※2)や、スポンサー企業への営業力だけでマスメディアに持てはやされ、世間一般ではアルピニストの代表のように認識されている。
 一方で、宮城氏のようなホンモノのクライマー、冒険家がそのアヴァンギャルドな行為に対する正当な評価を受けることなく、苦難を強いられている日本の登山界のトホホな現状。
 何とかならないものでしょうか。

(※1)両岸を高い岩壁に囲まれた沢の地形
(※2)「落ちこぼれてエベレスト」、「ニート登山家」等のキャッチコピーを冠した”登山家”には要注意
                                             (2016年10月)

2012年

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『岳P』石塚真一作(2012年8月/小学館)560円

 ビッグコミックオリジナルに掲載されていた山岳救助漫画の『岳』、とうとう終わってしまいました。コミックス17〜18巻に、クライマックスに至る主人公・島崎三歩のローツェ南壁登攀と、それとリンクするエベレスト公募隊の大量遭難劇が描かれています。
 エベレスト公募登山、大量遭難エピソードの挿入は、物語のスケールをふくらますためには有効なのでしょうが、既に他の書籍などによりその事例を知っていたので、既視感がありました。
 個人的には、島崎三歩が北アルプスでこつこつと遭難救助を行い、遭難者の人間ドラマも丹念に描き込まれていた、初期の作風が好みです。
                              (2012年8月)








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『垂壁のかなたへ』スティーヴ・ハウス著/海津正彦訳(2012年5月/白水社)2900円(税別)

 世界最強のアルパイン・クライマーとも称される、スティーヴ・ハウスの輝かしい登攀記録を綴った半生記です。
 本書に記された山行のうち、最も印象的だったのはデナリ南壁《スロヴァク・ダイレクト》の章。マーク・トワイト、スコット・バックスとともに60時間の速攻でマッキンリーの最大・最難関ルートをトレースした際の描写は、たいへん読み応えがありました。
  また、K7南壁ソロ登攀の荷物が3kg、ナンガパルバット・ルパール壁アルパイン・スタイル(ヴィンス・アンダーソンとのペア)の際のバックパックが9kgという超軽量装備にも驚き。これは高所での卓越したスピードと技術の裏付けがあればこそでしょう。
  世界最高峰のエベレストや8千メートル峰完登といったピークハントに背を向け、ビッグ・ウォールを舞台にひたすらアバンギャルドな登攀を追求する筆者の生き様に、喝采喝采を送りたい思いです。
                              (2012年5月)



2011年

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『遙かなる未踏峰上下』ジェフリー・アーチャー著/戸田裕之訳(2011年1月/新潮文庫)上巻667円(税別)/下590円(税別)

 「そこに山があるから」の名言(?)で知られ、初登頂を目指したエベレスト山頂アタックの際に遭難死したイギリスの登山家、ジョージ・マロリーの一生を、史実に着想を得て脚色した小説。
 筆者は山に詳しくない方なのでしょう。マロリーの3度のエベレスト挑戦の記述は拍子抜けするくらいあっさりしたもので、愛妻ルースとの馴れ初めや結婚後の生活、離れて暮らす二人の書簡のやりとりが中心の恋愛小説といった趣です。
 小説では青臭い理想主義者、愛妻家として描かれているマロリーより、2度目の遠征時に当時の世界最高到達高度まで登り、エベレスト上部での酸素ボンベ使用を主張したという、ジョージ・フィンチの反権威主義で女好きのひととなりに魅力を感じました。
 マロリー登頂説の立場で描かれている本小説、映画化の話も進んでいるとのことです。
                                             (2011年11月)


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『エベレスト登頂請負い業』村口徳行著(2011年4月/山と渓谷社)

 映像カメラマンで登山家の村口徳行氏が、野口健や三浦雄一郎をエベレスト山頂に導いた経験から、”エベレスト登頂マニュアル”ともいうべき本を上梓しました。
 もっとも、ネパール側、チベット側いずれもノーマルルートからのアプローチで、上部のキャンプやアタック中は酸素を吸うタクティクスについてのノウハウ本ですが。
 高所登山を志していた学生時代も、エベレストに登ろうという発想は欠片もなかった私は、ヒラリーステップが登山者の列で渋滞している表紙写真を見たとたんに萎えてしまい、本書の中身を読み進めるのも一苦労でした。
 自らも5度エベレスト山頂に立ったという村越氏による、世界最高峰に登頂するための結論は、「体力のある人だけがそこに行けばいい」とのこと。
 ノーマルルートから酸素を吸って登るエベレストは、技術も経験も要求されないルーティンワークの対象に墜ちてしまったようです。
                             (2011年6月)





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『初代竹内洋岳に聞く』聞き書き塩野米松(2010年3月/アートオフィスプリズム)1900円(税別)

 2011年5月現在、8千メートル峰12座に登頂しているプロ登山家の竹内洋岳が、自らの山の遍歴や思いを語ったインタビュー集です。
 竹内がドイツ人クライマーのラルフ・ドゥイモビッツらと実践している少人数、速攻登山における高度馴化、装備、食糧、気象、通信等の記述は、ヒマラヤにおける最先端のアルパイン・スタイルの実践マニュアルとして興味深く拝読しました。
 8千メートルでのスピードを維持するために入山前に体重を落としたり、ヒマラヤやカラコルムのピンポイント気象データを日本から入手するなど、十数年前の高所登山の常識はもはや通用しないのですね。
 全540頁に及ぶ分厚い本ですが、聞き書きスタイルのため読みやすく、一気に読了しました。
                              (2011年5月)





2010年

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『山岳装備大全』文 ホーボージュン×村石太郎 写真 永易量行
(2010年7月/山と渓谷社)1980円(税別)

 本サイトで既に紹介した、佐藤脩史や稲田俊など、共にトムール遠征した山岳部、探検部のOBが、山に関する書籍の執筆に関わっているのをみると、たいへん刺激になるし、同世代の活躍を嬉しく思っています。
 第1次トムール隊のメンバーで、山岳部では同期である永易量行が、カメラマンとして参加した山岳装備についてのガイドブック。山渓連載時から注目していましたが、このたび装いも新たに書籍として発行されているのを知って、速攻で購入しました。
 改めて読み直してみると、現役で登っていた十数年前には見かけなかったGPSやスノーシュー、トレッキング・ポール等の紹介にかなりの頁がさかれているだけでなく、アイスバイルのシャフト、アイゼンのビンディング等の形状も当時とは大きく変化しており、私が山から離れていた間の装備の進化には、目を見張らされるものがありました。
 去年の山岳部主将、加瀬君が「山の装備は高い」とこぼしていましたが、確かに、この本で紹介されている装備をひととおり購入するだけでも、かなりの散財を強いられるでしょう。
 表紙カバーで、「アウトドア用具の撮影に新流を作ったプロフェッショナルな仕事」ぶりを絶賛されている永易の作品。文章を読まずに頁をパラパラめくって写真をながめているだけでも、十分楽しめる一冊になっています。
 惜しむらくは、山渓連載時はカラーだった写真が、モノクロになっていること。せめてテントやシュラフ、ウェア類の写真はカラーで見たかったです。
                                              (2010年8月)


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『岳J』石塚真一作(2010年3月/小学館)550円

 来年(2011年)、実写版映画の上映が決定した山岳救助マンガの『岳』。主人公の島崎三歩を、今をときめく若手演技派俳優の小栗旬、長野県警山岳救助隊員の椎名久美を長澤まさみが演じるとのこと。
  映画の公開が今から楽しみです。
 そんな『岳』の最新刊。第7歩の「接点」は、ビッグコミックオリジナル誌掲載時から、何度読み返しても落涙してしまう、個人的にたいへん思い入れのある一編です。
                              (2010年3月)










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『一歩を越える勇気』栗城史多著(2009年12月/サンマーク出版)1300円(税別)

 正月休みにテレビ放送されていた、筆者栗城史多氏を特集するNHKの特番、観賞する時間があったにも拘わらず、何かイヤな感じがしてスルー、飲みに行ってしまいました。
 この本を読んで腑に落ちました。山岳書というより、私の大嫌いな宗教書や自己啓発書のカテゴリーに入る類のもんでしょう。サンマーク出版から発行されているし。
 スポンサーから”日本人初、エベレスト単独・無酸素登頂”のお金を無心することに、「冒険にかけるうちの九割ぐらいの力を入れ」(p124)、「毎日、各界で活躍する人たちに会いに行っている。山に登るトレーニングをほとんどすることもなく」(p128)という彼氏には、まったくのれません。
 先人の戸高雅史氏らに失礼でしょ。彼の山に取り組む態度は。
 若い人の可能性について口を挿むのは本意ではないのですが、栗城氏のエベレスト単独・無酸素登頂は、現状のままでは100%無理。
 彼の行く末は、スポンサーのA社ににナムチャバルワで殺された大西宏氏か、登山家というより、環境問題を錦の御旗にした、企業ごろつきのようになってしまった野口健の二の舞になると予想しておきましょう。
                                             (2010年2月)


2009年

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『初めての山へ六〇年後に』本多勝一著(2009年11月/山と渓谷社)2000円(税別)

 下記で取り上げた服部文祥氏も影響を受けたという、かつての気鋭のジャーナリスト、本多勝一も喜寿を迎えてヤキが回ったのでしょうか。
 50年前の北岳登山の際の奥方との馴れ初めを、三文恋愛小説ばりに綴っています。しかも、若かりし頃の写真付きで。ひと昔前のAV女優のように、自著においてさえ、ひたすら顔だしを拒んでいたホンカツ氏も、もはや、右翼に狙われる存在ではなくなったと本人が自覚したのなら、少々寂しいことではありますが。
 独自の言語観から、男性器を”はせ”、女性器を”ほと”と公言してはばからない本多氏のこと。奥様とのファーストキッスのシーンを、”キュッセン”等という気取った外来語表記で照れ隠しせず、やまとことばで堂々と”口吸い”をしたと描写してほしかったですね。
 上記の北岳以外の山行記録は、往年のスター選手の衰え果てた晩年の残骸をみるようで、トレースするのは辛い作業でした。
 『極限の民族』等、過去の名作も含めて、今後私がホンカツ本を手に取ることはないでしょう。
                                              (2009年12月)


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『狩猟サバイバル』服部文祥著(2009年11月/みすず書房)2400円(税別)

 ”サバイバル登山”を標榜し、その実践と理論について記した服部氏の過去の著作については、探検部時代にスケールは違えど、同じようなことを志向していたこともあって、さほど驚きをもって受け止めたわけではありませんでした。
 その服部氏が、フィールドを厳冬期の南アルプスまで拡げ、習得した狩猟技術によって、実際にシカ等のケモノを狩りながらそれを食糧として行動する、”狩猟サバイバル”について記した本書。
 文句なしにおもしろい。ここ数年読んだ山岳書のなかでは出色のできだと思います。
 なるべく自然や野生動物に対してフェアでありたいとし、テントや時計、火器類等を持たない素の状態でに山に入っていくべしとする服部氏。
 そんな彼が本書では、銃という圧倒的破壊力のある”装備”でケモノを撃ち殺すという行為に対する後ろめたさや、仔鹿を殺めてしまった際の心理的葛藤などを見事に言語化していています。
 独創的登山の実践家としてだけでなく、その体験を文章に綴る表現者としての高い能力に、嫉妬心すら覚えてしまいました。
                                              (2009年12月)


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『ヒマラヤ初登頂未踏への挑戦』尾形好雄著(2009年7月/東京新聞)2095円(税別)

 1993年のエベレスト南西壁、冬季初登攀を含め、8千b峰5座、7千b峰6座(うち初登頂5座)、6千b峰4座の頂上に立ってきた尾形好雄さんが、山に明け暮れた半生を綴った本です。
 専従だった日本ヒマラヤ協会(当時私も会員でした)を離れた後の消息は知らなかったのですが、本書によると47歳でスポーツ・ニッポンに入社し、カラコルムへ特派員と称して登りに行ったり、スポニチ登山学校を主宰したりしていたとのこと。
 60歳となり、宮仕えから離れた尾形さん。長年患っていた腰の手術も成功し、今後ますますご活躍されることを祈念しています。
 ちなみに、本書は357頁の大著で、写真もカラーを含めてふんだんに掲載してあるのに税別2095円とお買い得。ホンカツ氏と朝日新聞にも見習ってほしいものです。
                             (2009年9月)





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『65歳ますます愉しい山山』本多勝一著(2009年6月/朝日新聞出版)2100円

 京大学士山岳会(AACK)会員で、探検部創設者である本多氏に対しては、いろいろ思うところがあって肯定的な作品紹介ができそうにありません。
 本作に関しては、同じAACK会員である森本陸世氏が山行中に亡くなったエピソードにかなりの頁を割いていながら、本のタイトルに「ますます愉しい山山」とつけている無神経さ、記録もろくにとっていない十年以上前の山行を、僅か153頁、行間スカスカに薄めた本にして2100円(税込)で販売している商売上手な部分が鼻についたということのみ、指摘させて頂きます。
                              (2009年9月)







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『山をたのしむ』梅棹忠夫著(2009年7月/山と渓谷社)2800円(税別)

 京都大学士山岳会(AACK)の重鎮で、国立民族学博物館の事実上の創設者である梅棹忠夫さんが、「わたしの人生のルーツ」と語る山への熱い思いを記した本です。
 意外に思ったのは、京大山岳部に対して冷淡というか、けんもほろろな態度でこき下ろしていること。アルピニストではなくマウンテニ-アを自認する梅棹さんだけに、戦後創設された大学山岳部とは登山観において相容れないものがあるのでしょうが、山岳部員は決して「岩壁登りばかりやってる技術屋」というわけではないのですよ。
 梅棹さんの時代と違って、ヒマラヤの高峰等で”先鋭”(例えば、未踏の大岩壁にラインをひくようなクライミング)を目指すなら、ベースとしてフリーのムーブも取り入れた「岩」の技術が必要とされるので、日常の練習や合宿がクライミング中心になるのは避けられないというか、むしろ必然だと思うのですが。
 私は、AACKが実践していたような、「残り少なくなった6〜7千m未踏峰を最も易しいルートから極地法で登る」登山をむしろ、落ち穂拾いというか、前時代的なスタイルのように認識しています(現代においては)。
 山とは関係ないのですが、1993年に亡くなった中尾佐助氏(照葉樹林文化の提唱者)との交遊を回想した文章が本書の中ではイチ押しです。
                                              (2009年6月)


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『岳H』石塚真一作(2009年3月/小学館)550円

 ビッグコミック・オリジナル誌で連載中の山岳救助マンガ、『岳』の最新巻です。本巻は特に秀作ぞろいで、不惑を過ぎて最近涙腺が緩くなった私はウルウルしながら読んでました。
 巻末の”特別ふろく”に、クライマー平山ユージのエル・キャピタン、サラテでのクライミングなどが紹介されています。
                              (2009年4月)










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『凍』沢木耕太郎著(2008年11月/新潮文庫)552円(税別)/366頁

 日本が世界に誇るクライマー、山野井泰史氏についての本をこのHPでも、探検部の掲示板でもとりあげてこなかった理由は、肝心の本が手元になかったから。
 私の周りには、登山に詳しくなくても、一昨年NHKで放送された山野井夫妻のグリーンランド未踏岩壁登攀のドキュメンタリーを見て、山野井氏や妻の妙子さんに興味を持ったという人が結構いるのです。
 そういう方にはことごとく『垂直の記憶』や、『凍』等をプレゼントすることにしていたため、自宅には山野井氏に関する本が1冊も残っていませんでした。
 ちなみに、野口健や田部井淳子の本も現在手元にはないのですが、それはお金をだして買うのがもったいないから、図書館で借りたものを読んで紹介しているという、山野井氏の場合とは全く逆の理由によるものです。
  2/28(土)の朝日新聞朝刊に、「壁」は自分で設定し、リスクは一人で背負う。山と一体になるために。という山野井氏の特集が掲載されていましたので、探検部OB会の掲示板に記事のコピーをアップしておきました。
                              (2009年3月)



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『自然と国家と人間と』野口健著(2009年2月/日本経済新聞社)850円(税別)/243頁

 北京五輪の際、”エベレストのチベット側〜ネパール側交差縦走の夢”とやらを犠牲にして、ボイコットを呼びかけた野口健に対し、探検部の掲示板で異議を唱えました。
  中国政府による、チベット族への弾圧や人権侵害行為は当然非難すべきでしょう。
  それはともかく、酸素ボンベやサポートのシェルパ、フィックスロープ等を大量投入して行われる、およそスポーツの名にふさわしくないドーピングのような野口の登山を、野口自身が各国のトップアスリートのパフォーマンスと同列に論じ、オリンピックボイコットという極めて政治性の強いメッセージを発信していたことに対して、違和感を覚えたのです。
 また、エベレストの山頂付近で、死と隣り合わせの状況で閃いて始めたという、”御遺骨収集”についても、フィリピンのレイテ島で戦没者を対象に行うこと自体をとやかくいうつもりはありませんが、それよりも、エベレストのルートのいたるところに放置されている、遭難者の遺体や遺骨を”収集”して麓に持ち帰ることが先決なのではないでしょうか。
  エベレストの放置遺体については、本人もテレビや講演等で散々ネタにして飯のタネにしているのだし、彼がエベレストの清掃登山を標榜している以上、ゴミだけでなく、麓のシェルパの村の水源汚染の原因になっている遭難者の遺体を、まず何とかすべきと考えるのが自然な気がするのです。
  野口健については、亜細亜大の山岳部時代から、その卓越したセルフ・プロデュース能力を、世間に名前が売れるようになってからは、登山界や環境保護の分野における広告塔としての役割を評価・期待していただけに、誰に尻尾をふっているのか、最近の彼の言動を残念に思います。
                                              (2009年3月)


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『サバイバル登山家』服部文祥著(2006年6月/みすず書房)2520円/257頁
『サバイバル!〜人はズルなしで生きられるのか』服部文祥著(2008年11月/ちくま新書)798円/254頁

 最近、”サバイバル登山”なるものを標榜して、挑発的な内容の書籍を世に問うている服部文祥氏。
 氏については、都立大ワンゲル在籍時に、吉田ノリさんが「面白いヤツ」と評していたのを記憶しています。
 フリークライミングの思想を応用して、燃料や電池など、文明の恩恵に与った装備を極力排した”素の状態”で、日高や北アルプスの渓流に分け入っていく著者服部氏。
 持参する食糧は米と調味料のみ。釣った岩魚や採取した山菜、時には蛇や蛙を食し、夜はタープを張って焚火のそばでごろ寝。
 ザイル等の登攀具も極力用いず、奥深い渓をつないでいく行為を”サバイバル登山”と定義し、モデルケースとなるいくつかの山行を、処女作『サバイバル登山家』で紹介しています。
 2作目の『サバイバル!〜』は、山行記録は北アルプスの単独行のみですが、”サバイバル登山”の方法論や装備、食糧、その背景にある哲学など、実践よりも理論や思想の表明に重きをおいた著作となっています。
                                              (2009年2月)


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『八ヶ岳』信濃毎日新聞社編集局編(2008年6月/信濃毎日新聞社)2300円(税抜)/205頁

 山岳部OBで信濃毎日新聞記者の稲田俊が中心となり、信毎紙上に1年近くにわたって連載していたという『八ヶ岳』が本になりました。
  学生時代は第2次トムール隊に参加したり、探検部のネパール・ヒマラヤ、チュルー登山隊の隊長を務めたりしたものの、どこか山に対して距離を置いていた印象のある稲田氏。
  しばらく音沙汰がないと思ってましたが、あの稲田がこんな立派な仕事をしていたのですよ.!吉田隊長。
                              (2009年1月)





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『梅里雪山〜十七人の友を探して〜』小林尚礼著(2006年2月/山と渓谷社)2415円/303頁

  1991年、中国雲南省の梅里雪山(6740m)の初登頂を目指していた京都大学学士山岳会隊が、標高5100mのC3で雪崩に遭い、中国人隊員を含む17人が行方不明となりました。
  そのニュースについては、 前年にトムールで同様の遭難を経験していた私にとって、他人事ではないように感じられたことを鮮明に記憶しています。
  本書では、事故後、地道な捜索活動を続けていた小林尚礼氏らによって、16名の遺体が発見、回収された旨が記されています。
  表層雪崩による遭難とされている京大隊と、ブロック雪崩によるトムールのケースは単純に比較できないのでしょうが、この本を読んだ後から、しばらく封印していた私のトムールへの想いが再燃したように思います。
  余談ですが、本書の帯の推薦文を、今をときめく女優の宮崎あおいが書いています。いったい、京大や小林氏とどういう繋がりがあるのだろうと、首を傾げてしまいました。

                                              (2009年1月)


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『2003イエティ捜索隊全記録』古川伸子編(2004年10月/イエティ・プロジェクト・ジャパン)非売品/109頁

   2008年秋、日本のイエティ(雪男)捜索隊が、ネパール・ヒマラヤのダウラギリ山域で”足跡”を発見したニュースが世界中を駆け巡りました。
 前回、2003年の捜索隊には、佐藤修史が朝日新聞記者の職を賭して(結局、長期休暇をとり自費参加)加わっていますので、その報告書を紹介しておきます。
  イエティについては、明治大学山岳部OBの根深誠氏のように「チベットヒグマだ」と、その正体について懐疑的な見方をしている人も多いようですが、イエティ(未知の哺乳類)がヒマラヤ山中に「存在しない」ことは誰にも証明されていないのだから、捜索を続ける意義は大いにあると思っています。
  ただ、昨年撮影された”足跡”については、一足分、しかも片足の写真しか公開されていないこと、足跡があるなら周囲に体毛など落ちていてもよさそうなのに、それを捜した形跡が見られないこと等から、少々胡散臭さを感じてしまいましたが。
                              (2009年1月)



2008年

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『山を楽しむ』田部井淳子著(2002年9月/岩波新書)819円

 女性としてエベレストに初登頂したことで知られる登山家、田部井淳子氏が、山行や山の食事、環境保護などについて記したエッセイです。
  この中に、90年トムール隊の隊長、西堀さんが、トムールの遠征経験者でもある田部井氏にルート等の話を聞きに来たというくだりがあります。
  「別ルートをおすすめめした」と、当事者同士しか知りえない話を、西堀さんの遭難後にしゃあしゃあと書いている田部井氏。
 その無神経さと、後だしジャンケンのようなアンフェアな態度に、管理人田村が激怒した一冊です。
                              (2008年12月)









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『K2〜苦難の道程〜』出利葉義次著(2008年7月/東海大学出版会)2,310円/289頁

 一昨年、東海大学隊がK2(8611m)の南南東リブルートから登頂に成功した際の記録を、登山隊長を務めた山岳部監督がまとめたものです。
 K2サミッターに対する、日本人女性初や最年少という評価についてはよくわからないのですが、登頂者小松由佳さんによる、「頂上アタック報告」は臨場感があり、引き込まれました。
                               (2008年12月)









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孤高の人@〜B』坂本眞一作(集英社)540円


  新田次郎が単独登攀者加藤文太郎をモデルに描いた小説、『弧高の人』を原案としています。ただ、主人公の高校生、森文太郎が最初に挑むのは、現代の物語らしくフリークライミングの岩場です。
 漫画では、文太郎がソロクライミングに傾倒していくきっかけとなるエピソードが重たく描かれすぎていて、ちょっと引いてしまいました。
 週刊ヤングジャンプで連載中です。
                              (2008年12月)







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『岳@〜F』石塚真一作(小学館)550円

 漫画大賞2008を受賞した、評判の山岳救助物語です。作者はクライマーだったそうで、登攀や救助シーンの描写はリアリティがあります。
 主人公の山岳救助ボランティア、島崎三歩を通じて、山の厳しさや素晴らしさを描いた秀作です。
 現在第8巻が発売中。ビッグコミック・オリジナル誌で連載しています。
                              (2008年12月)









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『イカロスの山@〜I』塀内夏子作(講談社)540円

 20年ほど前、少年マガジンに『おれたちの頂』を連載していた作者による、未踏の8千メートル峰初登頂を目指すクライマーを描いた漫画です。
 昨年まで週刊モーニングで連載されていましたが、全10巻で完結。
 ビレイの技術等、不正確なクライミングシーンの描写に目をつぶれば、日本隊が初登頂した山に、パキスタンの少数民族の言葉で『ピーク・イシュパータ(再び会う山)』と名付けたセンス等、なかなかのものだと思いました。
                               (2008年12月)








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『オンサイト!@〜A』尾瀬あきら作(講談社)540円

 『夏子の酒』や、現在ビッグコミックオリジナル誌で連載中の『クロード』等の作者、尾瀬あきらがフリークライミングの世界を描いた漫画です。
 サブテーマとして、在日朝鮮・韓国人の通名問題も扱っていますが、全2巻で完結してしまい、作品としては消化不良気味です。
                               (2008年12月)








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横浜市立大学山岳部OB会HP管理人

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(田村康一/1990年卒)